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名古屋高等裁判所 昭和34年(く)25号 決定

抗告人 二宮康高

弁護人 寺尾元実

主文

原決定を取消す。

本件を名古屋家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は附添人弁護士寺尾元実の差し出した抗告理由書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、これに対し当裁判所は左のように判断する。

少年調査記録を含む一件記録を精査すると、本件少年の非行事実は要するに、他の少年と共謀して、昭和三十四年の四月、七月の二回に自動四輪車各一台を窃取し、同年七月運転資格もないのに自動車の無謀な操縦運転をしたというのであつて、原裁判所が少年を中等少年院へ送致することとした所以も、もとより十分に首肯し得られるのであるが、当審における事実取調の結果を加味参酌すると、少年は当時ようやく十七才で、自動二輪車の免許をとり、自動四輪車の運転練習をはじめたばかりで、性来機械をいじることの好きな質でもあつたので、同じ年頃の竹内金次郎等と相会した際、深夜自動車で飛ばしてみたい衝動に駆られ、ついに他人所有の自動車を二回に亘り無断、持出し運転したものと認められるから、このような動機、態様、非行歴などに鑑み、その非行性の内容は、いまだ必ずしもはなはだ強いものとは認められない。しかも少年の家庭は従来、祖母と母親との間がしつくりいつていなかつたが、原決定を契機として両者の反省により、家庭環境は著しく調整、改善されているし、ことに少年の近隣に居住する雇主北川正治夫妻は少年がこれまできわめて実直にたち働き銀行預金の出し入れその他にも、いまだかつて金銭上の過を犯したこともなかつたので、その将来を非常に嘱望しており、少年のためすでに離れ家を建てて、これに住込ましめ、厳重に監督すべきことを誓約しており、少年はもちろん、母親や祖母も右北川夫妻の好意に感激し少年の住込を熱望していることが認められる。かように少年の補導の上の諸条件は原決定後すつかり変つているので、この際、少年を少年院に収容して矯正教育を受けさせるよりも、むしろ、通常の社会生活を営ましつつ、これに適当な監督と援護を与え、その更生をはかるのが相当であるとおもわれる。よつて、原決定は事後の事情により、結局相当ではなくなつたものというべきであるから、本件抗告は理由あるに帰するので、少年法第三十三条第二項前段少年審判規則第五十条により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 小林登一 判事 中浜辰男 判事 成田薫)

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